2026年、がん研究の新たなパラダイムへ —— 基礎から臨床、実装科学に至る最新知見の総括


東京がん難病支援センターのブログをご覧の皆様、謹んで新春のお慶びを申し上げます。

2026年の輝かしい幕開けにあたり、本日は、昨年末に米国癌学会(AACR)が選出した「202512月のハイライト論文(Editors’ Picks)」を振り返りながら、本年のがん研究の展望を共有させていただきます。

膵臓がんに対する強力な「分子接着剤(Molecular Glue)」の発見から、個別化CAR-T細胞療法の開発に向けた新たな分子的枠組みに至るまで、これらの知見は、本年2026年ががん研究にとって飛躍の年となることを強く予感させるものです。基礎研究から臨床応用、そして予防医学に至るまで、科学の最前線で何が起きているのか、その深淵を共に覗いてみましょう。

1. 免疫療法における耐性メカニズムと個別化への道

キメラ抗原受容体(CART細胞療法や二重特異性抗体(TCE)は血液がん治療に革命をもたらしましたが、耐性の克服は依然として喫緊の課題です。

Blood Cancer Discovery』誌に掲載された研究では、多発性骨髄腫(RRMM)におけるゲノム抗原の喪失が、治療抵抗性の再発メカニズムであることが示されました。特筆すべきは、全ゲノムシーケンスと化学療法の変異シグネチャーを用いた解析により、両アレル性の抗原喪失(biallelic loss)が、既存のクローンからの選択ではなく、BCMAGPCR5Dを標的とした治療開始「後」に獲得されたものであると特定された点です。これは、治療前のスクリーニングだけでなく、治療中の動的なサーベイランスの重要性を強く示唆しています。

また、『Cancer Research』誌(1215日号)では、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)におけるCAR-T療法の奏効性を予測する因子として、治療前の末梢血における単一細胞レベルの特徴が明らかにされました。奏効群ではCD16陽性単球やCD4陽性エフェクターメモリーT細胞が増加していたのに対し、非奏効群ではTNFα応答シグナルの亢進など、炎症主導の遺伝子発現シグネチャーが確認されています。

2. 新規創薬モダリティ:分子接着剤と核膜孔複合体

創薬化学の分野でも画期的な進展が見られました。『Cancer Discovery』誌の表紙を飾ったのは、核膜孔複合体(NPC)を選択的に分解する「分子接着剤」に関する研究です。

がん細胞は転写活性が亢進しているため、核輸送に強く依存しています。本研究では、臨床開発段階にある化合物PRLX-93936が、ユビキチンリガーゼTRIM21に結合し、これを再プログラムすることでNPCを分解に導くことが発見されました。これにより、細胞質のmRNA転写産物が失われ、がん細胞のアポトーシスが誘導されます。これは、従来のアプローチでは標的化が困難であった細胞内機構に対する、新たな治療戦略の可能性を提示するものです。

3. 腫瘍微小環境(TME)と代謝のクロストーク

腫瘍微小環境(TME)における代謝と細胞死の制御も、重要なテーマです。

Molecular Cancer Research』誌では、卵巣がんにおけるPARP阻害薬への耐性メカニズムとして、がん関連線維芽細胞(CAF)の役割が解明されました。CAFにおけるコラーゲン受容体チロシンキナーゼDDR2の発現が、xCT–GSH–GPX4抗酸化経路を制御することでフェロトーシス(鉄依存性細胞死)を防ぎ、その結果として腫瘍細胞をPARP阻害薬による細胞死から保護していることが示されました。

一方で、有望視されていた治療法がTMEに悪影響を及ぼす例も報告されています。『Cancer Research Communications』誌によると、頭頸部がんに対するXevinapantと化学放射線療法の併用は、第III相試験で期待された成果を上げられませんでした。その機序として、この併用療法が腫瘍浸潤CD8陽性T細胞やNK細胞を減少させ、免疫抑制的なTMEを形成してしまうことが示唆されています。

4. 予防医学とスクリーニングの進化

最後に、がん予防と早期発見に関する新たな知見です。

Cancer Research』誌(121日号)では、高脂肪食(HFD)と大腸がんリスクの関係における腸内細菌叢の役割が解明されました。特定の腸内細菌Lactobacillus johnsonii が、抱合型胆汁酸をケノデオキシコール酸(CDCA)に変換し、これがミトコンドリア機能不全と酸化ストレスを介してアポトーシスを誘導することで、HFDによる腫瘍形成を抑制することが判明しました。これは、精密な予防戦略(Precision Prevention)への扉を開くものです。

また、スクリーニングの実装科学に関しては、『Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention』誌にて、子宮頸がん検診における自己採取キット(膣検体)の郵送が、従来の招待状のみの場合と比較して受診率を約11%向上させたというエビデンスが示されました。

2026年を迎えるにあたり、我々は「がん」という複雑な疾患に対し、分子レベルのメカニズム解明から社会的な実装に至るまで、多角的なアプローチで挑み続けています。本年も、科学の力が患者様の希望となることを信じ、研究と支援に邁進してまいりましょう。

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