ドラッグデリバリーシステムは、がん克服の次の一手となりえます

私が医師になった1989年は進行がんのみならず、ステージII、IIIのがんにも抗がん剤による血管内治療が盛んに行われていました。原理は全身に投与するより副作用が少ないということ、がんの近くで抗がん剤を噴射するので、より多くの抗がん剤ががんに入り強い効果が得られるのではないかと言うことです。ところが現実的には思ったより効果がでないことが多く苦心しました。主な理由はがん細胞は密集して存在するので、かなり硬く抗がん剤が入りにくいのです。実際がんを触った方がいらっしゃればいかに固いかお分かりになると思います。いわば木の机のように固いといったところでしょうか。当時からエビデンスが乏しいから欧米ではほとんど抗がん剤の血管内投与はされておりません。EPR効果と言ってがんの栄養血管は正常の血管に比べて隙間が多く、100nm以下の細かい粒子はむしろ正常の血管よりもがんの血管の方が薬剤が到達しやすい側面もあります。薬剤をがん細胞に効果的に届ける工夫として様々な工夫がなされてきました。この工夫のことをドラッグデリバリーシステム(DDS)、別名をベクター(運び屋)といいます。代表的にはリポソームと言う脂肪の膜とウイルスになります。リポソームはその作り方によって効果が全く異なります。できるだけ効率よくがん細胞に抗がん剤や遺伝子を届けるリポソームの作り方が世界的に精力的に行われておりすでに保険適用となったものもありより良い成績が報告されています。私は大学で研究をしていた際に、リポソームの元になる技術を使って細胞に遺伝子を入れる作業を行ったことがあります。その後、その細胞を使って様々ながんの抗がん剤耐性に関わる試験を行いました。今ではその知識と経験が役に立ち企業とともによりよいリポソームよるがん治療を提供できるよう開発に取り組んでおり、がんの種類により特異的にがん細胞内に取り込まれるタイプなど少しずつ臨床応用への道を探索中です。

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