肺がんのステージ4に直面すると、多くの人々が不安や絶望感に苦しむものです。しかし、最新の治療法と予後の展望を知ることは、希望を持つための第一歩です。この記事では、肺がんのステージ4に対する治療法の最新の動向と、患者の予後について詳しく見ていきます。 現在、肺がんのステージ4の治療法には、化学療法、放射線療法、免疫療法などがあります。また、ターゲット治療薬や遺伝子変異検査の進歩により、個別化された治療法が実現されつつあります。これらの治療法は、がんの成長を遅らせるだけでなく、症状の緩和や生存期間の延長も期待できるようです。 しかし、ステージ4の肺がんは進行が早く、治療が難しい一面もあります。予後は患者個人やがんの特性によって異なるため、一概には言えません。ただし、最新の研究からは、肺がんの予後が向上している傾向があることもわかっています。 肺がんのステージ4について正確な情報を知り、最新の治療法について理解することは、患者や家族の希望を持つために欠かせません。この記事では、ステージ4非小細胞肺癌の治療法と予後の展望について詳しく説明します。
Ⅳ期非小細胞肺癌における薬物療法の意義とサブグループ別の治療方針
―肺癌診療ガイドライン2023年版を中心に解説―
Ⅳ期非小細胞肺癌で用いられる標準治療として長らく細胞傷害性抗癌薬がその中心を担ってきました。細胞傷害性抗癌薬を用いた治療により有意に生存を延長させることが示されておりこれは1 年生存率にして9%(20%から29%)の改善、もしくは約1.5 カ月のOS*延長に相当します。第三世代細胞傷害性抗癌薬を用いた検討では、第三世代細胞傷害性抗癌薬単剤療法でも緩和治療に比して1 年生存率で約7%の改善がみられたことが示されています。深刻な副作用については進行非小細胞肺癌における細胞傷害性抗癌薬の治療関連死が1.26%であったと報告されており、その内訳は発熱性好中球減少、虚血や血栓などの心血管系の毒性、肺炎や間質性肺疾患などの肺毒性でした。一方、2000 年代以降になって分子標的治療薬・免疫チェックポイント阻害薬といった新規治療が登場し、これらは細胞傷害性抗癌薬との比較によってその有効性が示されています。
分子標的治療薬の多くはEGFR 遺伝子変異、ALK 融合遺伝子などのドライバーと言われる癌発生の直接的な原因となる遺伝子変異/転座に対する阻害薬です。全身状態良好で、これらのドライバー遺伝子の変異/転座を有する患者に対して、それぞれのキナーゼ阻害薬(=分子標的治療薬。がん細胞が増殖する際のシグナル伝達に必要な酵素であるキナーゼを阻害し抗腫瘍作用をあらわす薬)を投与することでORR**の増加、PFS***の延長などの有効性が報告されています。EGFR 遺伝子変異、ALK 融合遺伝子では細胞傷害性抗癌薬と比較した第Ⅲ相試験が実施されキナーゼ阻害薬を用いた治療のほうが細胞傷害性抗癌薬に比して有効であることが報告されています。頻度の少ないEGFR のuncommon mutation、その他のドライバー遺伝子(ROS1、BRAF、MET、RET)変異/転座陽性例では細胞傷害性抗癌薬と比較した第Ⅲ相試験が実施されていませんが第Ⅱ相試験などではそれぞれの阻害薬を投与することによって同程度の高い有効性が報告されています。また多くの分子標的治療薬は一般的に細胞傷害性抗癌薬よりも毒性が軽度であることが多く、少数例の検討ながら全身状態不良例における前向き試験での有効性が報告されています。キナーゼ阻害薬の適応となるドライバー遺伝子変異/転座陽性例は腺癌症例に多く認められる一方、ドライバー遺伝子変異/転座陽性の扁平上皮癌を有する患者に対するキナーゼ阻害薬の治療成績はエビデンスに乏しくさらに腺癌に対する治療成績と比較すると劣る傾向にありますが奏効例の報告もみられるため、いずれかのタイミングでキナーゼ阻害薬の投与を検討すべきとされています。
2015 年以降、本邦で使用可能となったPD-1 やCTLA-4 などの免疫チェックポイント分子を標的とした抗体薬は全身状態が良い患者群でEGFR 遺伝子変異、ALK 融合遺伝子を有さない、PD-L1 TPS****が50%以上の非小細胞肺癌を対象としたPD-1 阻害薬(ペムブロリズマブ)とプラチナ製剤併用療法の第Ⅲ相試験(KEYNOTE-024 試験)では、ペムブロリズマブ群においてORR、PFS、OS の有意な改善が示され、毒性も忍容可能とされています。さらに進行非小細胞肺癌を対象として細胞傷害性抗癌薬にPD-1/PD-L1 阻害薬やCTLA-4 阻害薬を併用した治療を評価した複数の第Ⅲ相試験が報告されており、高い有効性が示されています。
いずれにせよ治療方針の決定に際して、分子標的治療薬では腫瘍におけるドライバー遺伝子の変異/転座の有無を、ペムブロリズマブではPD-L1 の発現状態を組織検査で確認する必要があり、これらの薬剤を適切なタイミングで使用するためには組織、病期診断と並行して目の前の患者が、1)ドライバー遺伝子変異/転座陽性例、2)ドライバー遺伝子変異/転座陰性のPD-L1 高発現、3)それ以外、のいずれのサブグループに属するのかを診断することが重要です。
次に各サブグループにおける治療方針を示します。
1)ドライバー遺伝子変異/転座陽性例
ドライバー遺伝子変異/転座陽性例では前述したようにそれぞれのキナーゼ阻害薬を用いた治療によってORR、PFS の改善が報告されています。なおこれらの第Ⅲ相試験ではプラチナ製剤併用療法後の治療としてキナーゼ阻害薬治療へのクロスオーバーが高率に行われたために、OS の有意な差は示されていません。EGFR 遺伝子変異陽性例の大規模研究において、一次から三次治療のエルロチニブ*****単剤のPFS に有意差を認めないことが報告されており、キナーゼ阻害薬と細胞傷害性抗癌薬の投与順序に関して現時点で明確な結論はありません。しかし米国で行われた前向き観察研究では、733 例を対象に10 遺伝子について解析し、466 例(64%)にドライバー遺伝子変異/転座を認めこれを標的とした治療薬を使用した260 例のOS 中央値は3.5 年であったのに対し、ドライバー遺伝子変異/転座があったにもかかわらず、それを標的とした治療をしていない患者のOS 中央値は2.4 年でした。従いドライバー遺伝子変異/転座陽性例に対してキナーゼ阻害薬の投与機会を逸しないことは重要であり、細胞傷害性抗癌薬よりも優先して投与することを推奨すると肺がん治療のガイドラインに書かれています。
2)ドライバー遺伝子変異/転座陰性のPD-L1 高発現
PD-1/PD-L1 阻害薬の高い臨床効果が期待できるサブグループであり、初回治療としてペムブロリズマブ単剤療法もしくはアテゾリズマブ単剤療法を行うよう勧められています。従来のプラチナ製剤併用療法にPD-1/PD-L1 阻害薬を併用した治療やニボルマブ+イピリブマブにプラチナ製剤併用療法を併用した治療も勧められています。これらの治療によっても増悪した場合は二次治療として全身状態に応じて細胞傷害性抗癌薬を用いた治療を行うよう勧められています。
3)ドライバー遺伝子変異/転座陰性、PD-L1 TPS 50%未満、もしくは不明
このサブグループに対する一次治療として、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬単剤療法が細胞傷害性抗癌薬よりも有効であることは示されていません。しかしプラチナ製剤併用療法にPD-1/PD-L1 阻害薬を併用した治療又はニボルマブ+イピリブマブにプラチナ製剤併用療法を併用した治療は、プラチナ製剤併用療法のみと比較し有意な生存延長効果を示しており、プラチナ製剤併用療法の対象でかつ免疫チェックポイント阻害薬を併用した治療が可能な症例はこれらの多剤併用療法が勧められています。
それではドライバー遺伝子変異/転座陽性例に細胞傷害性抗癌薬は勧められるでしょうか?ガイドラインではエビデンスの強さを以下のように説明し勧められています。
「ドライバー遺伝子変異/転座陽性例の患者においても、ドライバー遺伝子変異/転座のない患者で推奨される細胞傷害性抗癌薬の治療をいずれかのタイミングで行うよう推奨する。」〔推奨の強さ:1、合意率:100%〕
ドライバー遺伝子変異/転座のある患者におけるキードラッグはキナーゼ阻害薬であるがこれまでに行われた第Ⅲ相試験では、多くの症例がキナーゼ阻害薬の前後で細胞傷害性抗癌薬の投与を受けている。後解析ではあるが、これらの第Ⅲ相試験にて細胞傷害性抗癌薬を投与されている患者の予後が良い傾向にあり本邦の大規模観察研究においても同様の傾向が認められている。ドライバー遺伝子変異/転座陽性例のみを対象として細胞傷害性抗癌薬と緩和ケアを比較した試験は存在しないが、ドライバー遺伝子変異/転座陽性例は陰性例と比較して細胞傷害性抗癌薬の効果が明らかに劣ることを示唆するデータはないため、ドライバー遺伝子変異/転座不明例やドライバー遺伝子変異/転座陽性例を含む非小細胞肺癌患者を対象とした過去の細胞傷害性抗癌薬のエビデンスは本対象に適応できると判断されています。
それではドライバー遺伝子変異/転座陽性例に細胞傷害性抗癌薬と免疫チェックポイント阻害薬を併用した治療は勧められるでしょうか?
ドライバー遺伝子変異/転座陽性の患者にプラチナ製剤併用療法と免疫チェックポイント阻害薬を併用した治療を行うよう勧めるだけの根拠が明確ではないと結論付けられています。
さらにドライバー遺伝子変異/転座陽性例に免疫チェックポイント阻害薬単独療法は勧められるでしょうか?答えは治療を行うよう勧めるだけの根拠が明確ではないとのことです。
現在もドライバー遺伝子変異/転座に対する治療薬がない非小細胞肺癌細胞肺がんもあり、1日も早い開発が望まれます。
OS*:臨床試験において治療開始日から患者さんが生存した期間のこと
ORR**:Overall Response Rate(=奏効率)の略で治療を受けた患者数を分母として、CR(完全奏効)とPR(部分奏効)となった患者数を合わせた割合。
PFS***: progression-free survival(=無増悪生存期間)の略で治療によりがんが進行せず安定した状態である期間のこと
PD-L1 TPS****:TPSとはTumor Proportion Scoreの略で癌組織を免疫染色してPD-L1の発現がどのくらいあるかを評価すること。スコアが1%未満、1-49%、50%以上に分けた場合、PFSとOSのいずれもPD-L1発現が50%以上ではペムブロリズマブの有効性が高いことが示されています。
エルロチニブ*****:上皮増殖因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害剤の一種です。
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