子宮頸がんワクチンについてしばしば質問される機会があります。これは非常に重要なテーマで多くの人が関心を持っているトピックですし、情報を共有することで助けになることも多いですので説明します。友人の医師から子宮頸がんワクチン後に歩行障害で車いすが必要となった10代の女性の話を聞いており知識と実態の整理が必要と考えていました。又、副作用の発現は摂取当日の体調によっても左右されますので私自身、各種ワクチン投与前の問診をする際には必ず過去のワクチンでの副作用の有無と当日の体調を訊くようにしています。ワクチンは医薬品の一種であり他の医薬品同様にメリットとデメリットの天秤においてメリットが多いために投与されることを前提としていることを投与する側と受ける側の両者が認識する必要があります。
世の中には子宮頸がんワクチンについて多数の情報があふれておりいくつかのブログや情報源を参考にすると良いでしょう。例えば、「みかりんのささやき」というブログでは、子宮頸がんワクチンの副作用に関する個人的な体験が詳しく書かれています1)。また、医療機関のブログでも副作用に関する情報が提供されています2-5)。さらに2024年9月20日のNHK首都圏ナビでは時代的背景を踏まえてわかりやすく解説されているので一部抜粋し解説します6)。国際パピローマウイルス学会評議員・ケンブリッジ大学病理学部江川長靖先生によると「子宮頸がんの原因になるHPVは性的接触によって感染し、男女ともにほとんどの人が20代のうちに感染することになります。そして、一部の人から10年、20年と時間をかけてがんが発症してくるのです。感染が起きる前の年代で予防接種をしておくことが予防において最も効果的です」。2010年以前からワクチン接種が進み、接種率が8割を越える国々では近年子宮頸がんのワクチンによる予防効果が可視化されてきたとのことです。例えば英国やスウェーデンやデンマークでワクチン接種の対象となっている世代に対して行われた研究では、適切な年齢でワクチンを接種することで、子宮頸がんのリスクを9割近く下げることができたというデータが示されました。さらに、スコットランドで1988年から96年生まれの女性45万人を追跡調査した研究結果が2024年に発表され、13歳までにHPVワクチンを接種した人々が25歳となり、子宮頸がん検診を受けたところ、子宮頸がんの発症例はゼロで一方、ワクチンを接種しなかった集団では10万人あたり8.4例が罹患しており接種と検診を適切に進めている国々では、今後も子宮頸がんの罹患者が激減していくことが予想されると言います。このブログのトップにある子宮頸がんの罹患率を各国と比べたグラフをご覧になると子宮頸がんの予防が先進的に進められてきた国と比較し日本では増加が続いていることがわかりヨーロッパやオーストラリア、韓国より罹患率が高く現在のように接種率が伸び悩む状況が続けば今後も日本の女性が子宮頸がんに罹患する割合は増えていく恐れがあると指摘されています。これは日本では、HPVワクチンの接種率が著しく低下した経緯があるからです。HPVワクチンは2009年に緊急促進事業として接種が開始され、2013年には12歳から16歳の女性が対象の定期接種となり、実質無料で接種できることになりました。しかし定期接種として始まった直後、HPVワクチンを接種したあとに体の痛みなどの身体の不調を訴える女性が相次いだことを受け厚生労働省は積極的な接種の呼びかけを一時的に中止しました。このとき、こうした接種後に報告された症状と接種との因果関係については現在ほど研究が進んでおらず当時は『ワクチンの副作用ではないか』とメディアで大きく報道されました。さらに接種後に体の痛みなどの重い症状が出たとして、130人の女性が国と製薬会社を相手に治療費の支払いなどを求める訴えを起こしています。その後は日本国内外で安全性や有効性に関する研究が進み、厚生労働省は「子宮頸がんを予防する効果のほうが副反応などのリスクよりも大きい」として2022年4月に積極的な接種の呼びかけを再開しました。積極的な呼びかけが中止された9年の間、定期接種対象の女性には、HPVワクチンに関する情報がほとんどない状態が続きました。大阪大学の研究グループは、この空白の9年の間の女性について調査を続け2000年度から2004年度までに生まれた現在19歳から24歳までの女性のうち、およそ260万人が無料接種の機会を逃したと分析しています。本研究グループの一人、上田豊医師は「救えるはずの命が救えない事態が実際に起きている」と話しました。HPVワクチンの接種後に、体の広い範囲に広がる痛みや手足の動かしにくさなど、「多様な症状」が起きたとする報告が、国に上がっています。厚生労働省によると、接種した1万人のうち約3~5人が入院にいたるなどの重篤な症状として報告されています。これだけを読むと、「ワクチンのせいで起きた症状」に見えるかもしれません。しかし、症状が起きていることは事実でも、これが「HPVワクチンそのもののせいで起きた症状とはいえない」というデータが次々と出てきました。厚生労働省全国疫学調査資料にもHPVワクチン接種歴のない者においてもHPVワクチン接種後に報告されている症状と同様の「多様な症状」を有する者が一定数存在したと書かれています。全ての人の医療情報が一元管理され、ワクチン接種とさまざまな症状についてひもづけて調べることができるヨーロッパの国々やアメリカ、韓国などでもHPVワクチンと副反応の疑いがある症状についての大規模調査が行われ、いずれも「接種していない人にも同様の症状が一定数起きていた」、「発生頻度にも有意な差はない」などの結果でした。これらの結果に加え、子宮頸がんそのものを予防する効果についても海外から報告が続いたことで、厚生労働省は「ワクチンの有効性が副反応のリスクを大きく上回る」などとして、9年ぶりに積極的な接種の呼びかけを再開したのです。さらに、HPVワクチンとの因果関係は不明でも、HPVワクチンの副反応の疑いがあると報告された人について厚生労働省による追跡調査も行われるようになりました。その結果、発症日などの詳細が把握できた人のうち、約70%の人は、7日以内に症状が回復。約90%の人は症状が回復または軽くなり、約10%の人は症状が続いていました。症状を訴える女性の中には症状を相談した病院で、「ワクチンのせいではない」「仮病じゃないか」と言われ、たらい回しにされたという例もあり、適切な診療を受けられないまま「症状が改善しない」、「悪化した」というケースもあったようです。
この9年の間にわかってきたことを踏まえ、いま全国の医療機関では接種の不安への対応や実際に起きうる症状への対応などの整備が進んできました。このようにメリットは大きいのは分かるけれどどうしても副作用が心配と躊躇する人は大勢いらっしゃると思います。前述の小生の友人の一人で開業医の藤沼医師や所属する団体では積極的に副作用と思われる様々な障害に対する改善に向けた治療を行っており小生もその一人です。接種にあたり情報はアップデートが必要なので是非民間団体や厚生労働省ホームページのヒトパピローマウイルス感染症~子宮頸がん(子宮けいがん)とHPVワクチンをご覧になることをお勧めします7,8)。
それでも子宮頸がんワクチンの接種によって健康被害が生じた場合は、予防接種法に基づく救済制度を利用して医療費や障害年金などの給付を受けられる場合があります。救済制度の対象となるのは、次のような場合です。
- 予防接種によって医療機関での治療が必要になったり、生活に支障が出るような障害が残ったりした場合
- 厚生労働大臣が、健康被害が接種を受けたことによるものであると認定した場合。救済制度の申請は、健康被害を受けた本人またはその家族が、予防接種を受けたときに住民票を登録していた市町村で行います。申請には、予防接種を受ける前後のカルテなど、必要となる書類が必要になります9)。子宮頸がんワクチン接種後に副反応と思われる症状が出た場合は、接種した医療機関に相談するとともに、各都道府県に設置されている協力医療機関へ受診しましょう。ブログのテーマや内容について、さらに具体的なアドバイスが必要でしたら、ぜひ教えてくださいね。
1) みかりんのささやき ~子宮頸がんワクチン被害のブログ~. https://ameblo.jp/3fujiko.
2) 院長ブログ | 子宮頸がんワクチンを打つ前に | 長野県中野市の …. https://www.takahashi-clinic.net/blog01/4883/.
3) 子宮頸がんワクチンの副作用 – 医療法人社団エキクリ. https://eki-kuri.com/column/human-papillomavirus-vaccine/.
(4) 子宮頸がんワクチンの副作用は?有効性や症状まで解説. https://medicaldoc.jp/m/cm-medical/human-papillomavirus-vaccines/.
(5) 女性のためのお役立ちコラム | 仙台市青葉区中央 産婦人科
https://nagaike-clinic.com/column/detail.html?no=63100
(6) https://www.nhk.or.jp/shutoken/articles/101/012/14/
(7) https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/index.html
(9) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_kenkouhigaikyuusai.html
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