実験的なmRNAがんワクチンの第I相試験では進行がん患者に有望な結果を示す

ご存知のとおりCOVID-19のワクチンは従来のインフルエンザや麻疹に対するワクチンとは異なるmRNAワクチンです。このmRNAワクチン開発の技術と健常人への普及のおかげでがんに対するmRNAワクチンが従来の予測より早くにがん患者さんに届けられることになりそうです。

2024年9月に行われた欧州臨床腫瘍学会ESMOにおいてモデルナ社が後援し英国School of Cancer & Pharmaceutical Sciences とGuy’s and St Thomas’ NHS Foundation Trustらにより行われた初回のヒト研究でもあるフェーズI試験の結果が報告されました。mRNAがんワクチン療法は、肺がん、悪性黒色腫、その他の固形腫瘍の患者を対象として進行期がんの患者19名が、免疫療法による治療を1から9回受けました。結果として医師らはこの免疫療法ががんに対する免疫反応を生み出し、疲労、注射部位の痛み、発熱などの副作用がなく、忍容性が高いことを発見しました。このmRNA免疫療法は、世界中で臨床試験に入っている多くの癌ワクチンの1つに過ぎませんがこの治療は、腫瘍の一般的なマーカーを患者の免疫系に提示(伝達)し、それを細胞表面に持つ癌細胞を認識して戦うように免疫系を訓練し、免疫系を抑制する可能性のある細胞を排除することによって効果を発揮します。第I相試験は免疫療法の安全性と忍容性をテストするために設計され、第二第三の目的は放射線学的および免疫学的反応を評価することでした。反応を評価できた16人の患者のうち8人は腫瘍のサイズが拡大せず、新しい病変も現れなかったことを証明することができました。また、データの解析でこのmRNA免疫療法が多くの患者の免疫系を活性化し、血液中に2つの目的のタンパク質(PD-L1とIDO1)を認識できる免疫細胞を生成できることもわかりました。研究者らは、一部の患者では免疫療法によって、がん細胞を殺すことができる重要な免疫細胞が増えた一方で、免疫を抑制する他の免疫細胞が減ることを実証できました。

Guy’s and St Thomas’ NHS Foundation TrustのDr. Debashis Sarkerは「この治療法は深刻な副作用もなく忍容性が高く、体の免疫系を刺激してがんをより効果的に治療できることがわかっています。しかし、この研究は今のところ少数の患者しか対象にしていないため、進行期がん患者にどの程度効果があるかを判断するのは時期尚早です。」と述べており今後、このmRNA-4359をターゲットにするワクチンのさらなる研究が望まれることを裏付けるものです。また英国がん研究センターのディレクター、Professor Tariq Enverは次のように述べています。「当センターの教員Dr. Debashis Sarkerとその同僚が、個別化されたがんワクチンの実現に一歩近づいたことを祝福します。当センターでのトレーニングをサポートする役割を通じて、Dr. Debashisは次世代の臨床科学者に刺激を与え続け、生物学的がん治療における命を救う画期的な進歩を推進しています。」

そもそもなぜ今、mRNAがんワクチンかというと従来のDNAや蛋白を標的とするがんワクチンとは異なりmRNAは細胞内の核まで到達しなくても、細胞質でタンパク質翻訳*が始まるので、どのような細胞でも高い効率のタンパク質産生が可能であること、および核に存在するゲノムDNAに誤って組み込まれるリスクがないことが主な理由です。理論的にはより安全性の高いがんワクチンとも言えます。5-7年後にはmRNAがんワクチン承認のラッシュになるかもしれません。

*細胞内でDNA→mRNA→タンパク質が作成される過程はセントラルドグマと呼ばれ細胞の基本的な活動の一つです。mRNAを鋳型としてタンパク質を作る過程を翻訳といいます。

 

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