同種NK細胞療法の夜明け ─「治療の標準化」と「手頃な価格」をめざして

NK細胞ががん免疫療法の主役に?

テキサス州MDアンダーソンがんセンターのKaty Rezvani教授は、近年急速に注目を集める同種NK細胞療法(Allogeneic Natural Killer Cell Therapy)の臨床開発を牽引しています。彼女がめざすのは、「CAR-Tの限界を超えた、安全かつオフ・ザ・シェルフな細胞療法」です。

 

同種NK細胞の利点と課題

NK細胞はT細胞と比較して短命で、持続的な効果を得るにはサイトカインによるサポートが必要ですが、その毒性が問題でした。Rezvani教授の研究チームは、CAR構築体にIL-15遺伝子(R15トランスジーン)を組み込み、NK細胞の体内持続性と抗腫瘍効果を高める戦略を開発しています。

その結果、一部の患者では投与後1年以上NK細胞が低レベルで持続し、臨床的反応を示すことが確認されています。

 

なぜ同種細胞なのか?T細胞との違い

T細胞療法は高価で複雑なうえ、サイトカイン放出症候群(CRS)や神経毒性などの管理が難しく、ICUを備えた先進医療機関でしか提供できません。これに対し、Rezvani教授の提案する同種NK細胞製剤は、1人の健康ドナーから数百回分の製造が可能で、凍結保存して世界中に送付できるのが特長です。

つまり、治療の普遍化・平準化を実現するための鍵として、NK細胞は理想的な「兵士」なのです。

 

“TCR-NK細胞”という革新

さらに驚くべきは、NK細胞にT細胞受容体(TCR)シグナル伝達装置を導入したTCR-NK細胞の開発。これは、「NKとTの融合体」ともいえる細胞で、通常のCARでは標的化できない細胞内抗原(NYESOなど)を認識可能となり、HLA制限型の新世代療法として期待が高まっています。

 

併用・多細胞系アプローチの重要性

Rezvani教授は、「単一細胞では限界がある」と明言します。マクロファージ、γδT細胞、サイトカイン誘導キラー細胞など、異なる細胞種の連携や相互活性化を通じた新たな戦略が模索されています。これは、難治性の膵臓がん、卵巣がん、膠芽腫などへの応用にもつながる視点です。

 

将来への展望とCTIの役割

現在、Rezvani教授はMDアンダーソン細胞療法研究・開発研究所(CTI)の初代所長に就任。ここでは、がんだけでなく、ウイルス感染症や自己免疫疾患(SLE、強皮症)への応用も進められており、トランスレーショナルリサーチによる治療反応性・耐性の決定因子の探索にも力を入れています。

 

最適なドナーを見極めるためのオミクス解析

最後に特筆すべきは、Rezvani教授のチームが取り組む“最良のドナー”選定法の確立。NK細胞の反応性はドナーによって大きく異なるため、ゲノム・エピゲノム・プロテオーム解析を活用し、「NK細胞の優良ドナーの特徴」を解明することで、製造のバッチばらつき問題を克服しようとしています。

 

まとめ:オフ・ザ・シェルフNK細胞はがん治療の新時代を拓くか?

同種NK細胞療法は、CAR-T療法の安全性・コスト・アクセスの課題を打破しうる可能性を秘めています。今後、複数細胞種の統合・新規標的抗原・ドナー品質の最適化が鍵となり、多施設共同第Ⅱ/Ⅲ相試験への移行も視野に入っています。

Rezvani教授のビジョンは、細胞治療を「選ばれた施設のもの」から「世界中のがん患者が受けられる治療」へと変える可能性を示しています。

 

※バッチばらつき問題(batch-to-batch variability)とは、同じ製品を繰り返し製造した際に、各製造ロット(バッチ)ごとに品質や効果、特性が一定しない問題のことを指します。バイオ医薬品や細胞療法製品では特に重要な課題です。

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