CD40アゴニスト抗体が転移性がんを消失させる:局所注射による全身免疫反応の誘導と三次リンパ構造の形成が鍵

免疫系を活性化してがんを攻撃するという発想は、CD40アゴニスト抗体において長年の研究対象でした。しかしながら、CD40アゴニスト抗体は、動物モデルでは有望であっても、臨床応用においては強い毒性と限定的な効果という課題に直面していました。

この壁を打ち破ったのが、ロックフェラー大学のJeffrey V. Ravetch博士らによって開発されたFc最適化CD40アゴニスト抗体「2141-V11」です。本記事では、Cancer Cellに発表された第I相臨床試験の結果と、それが意味する免疫学的・治療的インパクトを紹介します。

システム毒性を回避する“2つの工夫”:Fc最適化と局所投与
これまでのCD40抗体は、全身投与(静脈注射)によって広範囲の免疫細胞を活性化させ、炎症、肝毒性、血小板減少などの副作用を引き起こしていました。Ravetchらはこの問題に対し、以下の2点でアプローチを変更しました:

Fc領域の工学的最適化:Fc受容体との高効率なクロスリンクを促進し、より選択的かつ強力な免疫活性化を実現。

腫瘍内注射(i.t.)による局所投与:薬剤を腫瘍に直接注入することで、標的を腫瘍組織に限定し、副作用を抑制。

第I相試験:腫瘍局所注射で全身効果を誘導

NCT04059588試験では、12名の転移性がん患者(メラノーマ、腎細胞がん、乳がんなど)に対して、2141-V11を4段階の用量で腫瘍に直接注射。毒性は軽微で、用量制限毒性(DLT)は認められませんでした。

12名中6名に腫瘍縮小効果

うち2名は完全奏効(CR):1名はメラノーマ、もう1名は乳がん

注射していない遠隔腫瘍も縮小または消失
→ “abscopal effect”(遠隔効果)に類似した現象を臨床的に確認

この結果は、局所免疫刺激による全身免疫応答の誘導という、新たな治療パラダイムを示唆しています。

腫瘍内で“免疫組織”が形成される:三次リンパ構造(TLS)

2141-V11投与後、腫瘍組織には樹状細胞、T細胞、B細胞などが集積し、三次リンパ構造(TLS)が形成されました。これは免疫系が腫瘍を認識し、現地でリンパ節様の抗腫瘍免疫環境を形成したことを意味します。

TLSは非注射腫瘍にも形成されていた

CR例の腫瘍では、治療前にはTLSが存在せず、治療後に顕著に出現

TLSの出現は、免疫チェックポイント療法の奏効とも相関が知られる

TLSは今後、バイオマーカーとしてだけでなく、治療設計におけるターゲットとしても注目される可能性があります。

反応性の予測因子:T細胞クロナリティの役割

CRを達成した2名はいずれも、治療前に高いT細胞クロナリティを持っていたことが判明しています。これは、既に存在する腫瘍特異的T細胞クローンが、CD40アゴニズムによって再活性化された可能性を示唆します。

現在進行中の後期臨床試験(Phase I/II)では、200名近くの患者を対象に、以下のがん種に対する治療効果を評価中です:
膀胱がん
前立腺がん
神経膠芽腫(グリオブラストーマ)

これらの試験は、奏効する患者の特徴を明らかにし、非奏効者を奏効者に変える戦略を構築するための重要なステップとなるでしょう。

展望:局所免疫療法としてのCD40アゴニストの可能性

CD40アゴニズムは、静脈投与から腫瘍内注射へのパラダイムシフトにより、安全性と有効性の両立を実現しました。
Fc最適化により免疫応答を強化しつつ、TLSの形成という新たな免疫ニッチの創出が観察されたことで、免疫療法の次なるフロンティアが開かれつつあります。

今後の課題としては:
奏効予測因子の確立と検証
他の免疫療法との併用戦略
TLS誘導の分子メカニズム解明
が挙げられます。

この成果は、がん免疫学におけるCD40経路の再評価を促し、難治性がんに対する新たな局所免疫療法の確立につながる可能性を秘めています。

参考文献:
Osorio J, et al. Cancer Cell (2025). “Fc-optimized CD40 agonistic antibody elicits tertiary lymphoid structure formation and systemic antitumor immunity in metastatic cancer.”
ClinicalTrials.gov ID: NCT04059588

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