若年層における大腸がんの増加とコリバクチンの関係:腸内細菌がもたらす新たなリスク

近年、若い世代における大腸がんの発生率が世界的に増加していることが懸念されています。特に日本では、50歳未満の若者の大腸がん患者が急増しており、その原因について多くの研究者が頭を悩ませています。最近の研究によると、細菌が生成する毒素「コリバクチン」が、この現象に関与している可能性が示唆されています。

コリバクチンとは?
コリバクチンは、大腸菌(Escherichia coli)など一部の腸内細菌が産生する遺伝毒性物質です。この毒素はDNAに損傷を与え、特定の変異パターン(変異シグネチャー)を引き起こすことが知られています。これらの変異は、がんの初期段階で見られるAPC遺伝子の変異の一部にも関連しており、大腸がんの発症に関与している可能性があります。
研究によると、全体の20〜30%の人々がコリバクチンを生成する細菌を保有しているとされていますが、これらの細菌を持つすべての人が大腸がんを発症するわけではありません。

若年層での影響
2025年4月23日、学術誌『Nature』に発表された研究では、カナダ、日本、タイ、コロンビアを含む11カ国の約1000人の大腸がん患者から採取した血液と腫瘍組織のサンプルを分析しました。研究チームは、50歳未満で大腸がんと診断された患者において、コリバクチンに関連する遺伝子変異が「著しく多く見られる」ことを発見しました。特に、40歳未満の患者は、70歳以上の患者と比較して、コリバクチン由来の変異を持つ割合が約3倍も高いことが明らかになりました。また、日本人の大腸がん患者の約50%に、コリバクチンによる変異パターンが確認されており、他国と比較して高い割合を示しています。特に50歳未満の若年患者では、70歳以上の患者と比べて3.3倍多くのコリバクチン関連変異が見られました。

幼少期の影響
研究者のアレクサンドロフ氏は、コリバクチンにさらされた時期が大腸がんの発症に影響を与える可能性があると指摘しています。研究結果は、コリバクチン由来の変異シグネチャーを持つ患者が10歳未満でコリバクチンにさらされていたことを示唆しており、幼少期の腸内微生物叢への影響が大腸がんの発症時期を20〜30年早める可能性があると考えられています。
また、コリバクチンによる変異の有無と腸内のコリバクチン産生菌の量には直接的な関連が見られないことから、幼少期からの長期的な曝露がリスク要因となっている可能性が示唆されています。

環境要因と食生活
コリバクチンを生成する細菌の保有率は、都市部に住む人々の方が高いことが過去の研究で示されています。特に、赤肉や加工肉、添加糖、精製穀物が多く、果物や野菜が少ない西洋型の食事が大腸がんのリスクと関連していることが示されています。しかし、なぜ西洋型の食事がコリバクチンによる変異の発生率を高めるのかについては、まだ十分な情報がありません。

予防と早期発見の可能性
アレクサンドロフ氏とシアーズ氏は、長期的なデータが必要であると強調しています。理想的には、幼少期から対象者を追跡し、コリバクチンを生成する菌を標的とするプロバイオティクスを摂取させ、その後の遺伝子変異や大腸がんの発症を観察することが望ましいとされています。もし、コリバクチンに関連する遺伝子変異を特定する便検査が開発されれば、早期の大腸がん検診を受けることが可能になるかもしれません。
また、若年層の大腸がんリスクを低減するためには、以下の点が重要とされています:
• 食生活の改善:食物繊維を多く含むバランスの取れた食事を心がけることで、腸内環境を整え、炎症を抑える効果が期待されます。
• 早期スクリーニングの推奨:特に家族歴がある場合や症状がある場合は、早期の検査を受けることが推奨されます。
• 腸内細菌叢の管理:プロバイオティクスの摂取や抗生物質の適切な使用により、腸内の有害菌の増殖を抑えることが考えられます。

生活習慣の改善
しかし、コリバクチンだけに焦点を当てた研究は、若年層の大腸がん増加に対する「究極の解決策」にはならないとシアーズ氏は述べています。より多くのデータが得られるまで、生活習慣の改善に取り組むことが重要です。地中海式の食事、定期的な運動、禁煙、アルコールの摂取量を抑えることが推奨されています。

意識の重要性
大腸がんの症状を軽視する傾向があるため、医療従事者や若年層に対する意識の向上も重要です。長く続く腹痛や原因不明の体重減少、直腸出血などの症状がある場合、それが深刻な病気の可能性を示唆していることを理解しておく必要があります。早期発見が治療を容易にするため、注意が必要です。

結論
若年層における大腸がんの増加は、コリバクチンを含むさまざまな要因が絡み合った結果であると考えられます。今後の研究によって、コリバクチンと大腸がんの関係がさらに明らかになり、予防や早期発見の手段が確立されることが期待されます。私たち一人ひとりが健康を意識し、生活習慣を見直すことが、未来の大腸がん予防につながるでしょう。

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