デュアル標的CAR-T細胞療法が膠芽腫(GBM)を抑制 ― 第I相試験の成果報告

膠芽腫(glioblastoma, GBM)は成人における最も予後不良な脳腫瘍の一つであり、診断からの平均生存期間は12〜18か月、再発例では中央値6〜10か月にとどまります。従来の免疫チェックポイント阻害薬や化学療法では効果が限定的であり、新たな治療戦略の開発が急務とされています。

2025年6月に米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次集会で発表され、Nature Medicine に掲載されたペンシルベニア大学(Penn Medicine)からの第I相臨床試験の結果は、この難治性腫瘍に対して新たな可能性を示しています。

 

デュアル標的CAR-T細胞の開発

この研究では、Donald M. O’Rourke教授らのグループが、2種類の腫瘍関連タンパク質を同時に狙うCAR-T細胞を開発しました。標的は、脳腫瘍で高発現が知られるEGFRとIL-13Rα2であり、両者を組み合わせることで“escape”を防ぐことを目的としています。CAR-T細胞は手術後に脳脊髄液中へ直接投与されました。

 

臨床試験デザインと成績

対象は再発GBMの18例で、手術で腫瘍を可及的に切除後、デュアルCAR-Tを投与しました。結果として、残存腫瘍が1cm以上あった13例のうち8例で腫瘍縮小が認められました。

  • 生存期間においても従来報告を上回り、7例が1年以上生存し、1例では16か月以上腫瘍進行なしで経過。
  • 投与後も脳脊髄液中にCAR-Tが長期間検出され、持続的な抗腫瘍免疫応答が示唆されました。
  • 組織学的解析では、T細胞浸潤やマクロファージによる腫瘍クリアランスも確認されています。

 

意義と今後の展望

本試験は早期段階ながら、従来の免疫療法が成果を出せなかったGBMで腫瘍縮小が確認された点は画期的といえます。O’Rourke教授は「腫瘍が縮小または進行停止する安定期は患者の生活の質を大きく改善する」と言及し、今後は治療法の改良や持続効果の延長を目指すとしています。

再発膠芽腫は依然として治療困難ですが、デュアル標的CAR-T細胞療法は将来の治療戦略における重要な候補と期待されます。特にEGFRとIL-13Rα2を同時に抑えるアプローチは、腫瘍の抗原多様性と免疫回避に挑む先駆的な試みといえます。

 

関連キーワード

関連記事

RELATED POST

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


PAGE TOP
MENU
お問合せ