間質を変えれば膵がんは変わる:マクロピノサイトーシス阻害が微小環境を一変させる

マクロピノサイトーシスの抑制が膵臓がんの微小環境を再構築する

 

膵臓がん(膵管腺癌、PDAC)は、極めて治療抵抗性が高く、豊富な間質(ストローマ)によって薬剤送達や免疫浸潤が阻まれることが知られています。この間質の主要構成要素のひとつが、癌関連線維芽細胞(CAFs)です。近年の研究により、CAFsには少なくとも2つの主要なサブタイプが存在し、それぞれが異なる腫瘍促進的役割を担っていることが明らかになってきました:筋線維芽細胞型(myCAF)と炎症性線維芽細胞型(iCAF)です。

 

本研究の核心:栄養ストレス下でのCAFサブタイプ維持におけるマクロピノサイトーシスの役割

本研究では、PDAC腫瘍におけるグルタミン欠乏という代謝ストレス環境下で、CAFsがマクロピノサイトーシス(細胞が細胞外の液体を取り込む過程)を利用して生存および機能を維持していることが示されました。

 

特に注目すべきは、マクロピノサイトーシスがmyCAFの表現型を保持し、炎症型iCAFへの変化(reprogramming)を抑制している点です。すなわち、マクロピノサイトーシスを阻害すると、CAFsはMEK-ERKシグナルを介して炎症性プログラムを活性化し、iCAFへの転換が促進されるというメカニズムが明らかにされました。

 

マクロピノサイトーシス阻害による腫瘍微小環境(TME)の再構築

このmyCAFからiCAFへの転換は、腫瘍間質において次のような大きな変化をもたらしました:

 

コラーゲン密度の減少(線維化の緩和)

 

免疫細胞の浸潤増加

 

血管の拡張と改善された薬剤送達

 

免疫療法および化学療法への感受性向上

 

つまり、マクロピノサイトーシスの阻害は、腫瘍の免疫抑制的・線維性環境を炎症性かつ薬剤が浸透しやすい状態へと再構築することができるのです。

 

臨床的意義と展望

膵臓がん治療の難しさの一因は、物理的・生理的バリアを形成するCAFsにあります。本研究は、マクロピノサイトーシスという代謝経路を標的とすることで、CAFの機能を再プログラムし、TMEを治療応答性の高い状態に変化させる可能性を示唆しています。

 

これは、代謝制御と細胞可塑性の接点を標的とした「間質の治療」戦略として、今後の膵臓がん治療の大きなブレイクスルーにつながるかもしれません。

 

参照:Macropinocytosis maintains CAF subtype identity under metabolic stress in pancreatic cancer. 著者:Yijuan Zhangら(Cancer Cell誌、2025年7月)

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