2025年6月、京都大学の研究チームが、RNA分解酵素「Regnase-1」がIL-17シグナル経路を介して大腸がんの進展を抑制することを、マウスモデルおよびヒト検体を用いて実証し、PNAS誌(米国科学アカデミー紀要)に発表しました。
研究の背景と着眼点
大腸がんは男女ともに死亡原因上位を占め、特に進行例では既存治療への抵抗性が問題です。腸管は腸内細菌叢との相互作用により独自の免疫環境を持ち、Th17細胞が分泌するIL-17は感染防御に有効な一方で、腫瘍進展促進因子としても機能することが知られています。
本研究では、IL-17シグナルの制御因子として注目されるRegnase-1が、大腸上皮で腫瘍抑制的に作用するメカニズムを明らかにしました。
主な実験結果
- Regnase-1欠損マウス(Reg1KO-Min)では、大腸腫瘍の数・サイズが有意に増加し、腫瘍細胞のKi67やp-ERKが上昇。
- 網羅的遺伝子解析で、Nfkbiz mRNAがRegnase-1の主な標的であると判明。
- IL-17中和抗体や抗生剤処置、Nfkbiz欠損により腫瘍抑制効果を確認。
- Dimethyl Fumarate(DMF)がRegnase-1の発現安定化を介して、IL-17経路およびERK活性を抑制。
臨床応用の可能性
DMFは既に多発性硬化症や乾癬の治療薬としてFDA認可を受けており、既知の薬剤再開発(drug repositioning)の観点からも注目されます。本邦では商品名「テクフィデラ®カプセル」として、2016年12月に厚生労働省に承認され、2017年2月から販売されています
また、TCGAデータ解析により、Regnase-1高発現群では生存率が有意に高いことが示され、バイオマーカーとしての可能性も浮上しました。
今後の展望
研究チームは今後、Regnase-1を標的とした新規抗腫瘍薬の開発を目指すとともに、肝・胆・膵領域へのIL-17/Regnase-1経路の関与についても追究する予定です。
参考:
- Iguchi E, Takai A, Seno H. Kyoto University, 2025.
- Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS), June 2025.
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